こんにちは。今日は最近読んで心に残った本のお話を。
高田大介さんの『記憶の対位法』という小説をご存知ですか?
「知的探求の喜びに満ちた最新長編ミステリ」という帯を見て手に取ったのですが、読み進めていくうちに「あ、これはミステリーというより、とても美しい文学作品だな」と感じました。
期待していたものとは違ったけれど、とても良い意味で裏切られた一冊でした。

フランスの日常に浸れる贅沢な読書体験
舞台はフランス・リモージュ。
主人公のジャンゴという記者の青年が、祖父マルセルの遺品整理のために小さな村を訪れるところから物語が始まります。
この本の魅力は、観光ガイドブックでは知ることのできない、フランスの人々のリアルな暮らしぶりを垣間見ることができること。
著者の高田大介さんがフランス在住ということもあって、現地の人の目線でフランスを感じることができるんです。
たとえば、ジブリ映画『ハウルの動く城』に出てくる美しい木造建築、あれは「コロンバージュ」と呼ばれる建築様式で、主人公ジャンゴの祖父が育ったアルザス地方で見られるものだそうです。
こういう文化的な背景を知ると、映画を見返すのも楽しくなりますよね。
主要な登場人物
ジャンゴ・レノールト
主人公の青年記者。フランス・リモージュで働いています。
社会問題には関心があるものの、周りからの批判を気にして少し消極的になってしまっているところが、なんだか身近に感じられるキャラクター。
祖父の遺品と出会うことで、自分自身と向き合う旅が始まります。
ゾエ・ブノワ
西洋古典を専攻する大学院生の女性。
物語の終盤でジャンゴと「歴史とは何か」について深い議論を交わす、とても知的で魅力的な人物です。
彼女との出会いが、ジャンゴの考え方を大きく変えるきっかけに。
マルセル・レノールト
ジャンゴの祖父で、この物語の鍵を握る人物。
アルザス=ロレーヌ地方の出身で、ジャンゴが生まれる前に亡くなっています。
でも、遺された小さな木箱と古い書類が、孫の人生を大きく変える旅の始まりとなるのです。

「対位法」が教えてくれる、人生の奥深さ
タイトルにもなっている「対位法」。
これは複数の旋律を同時に奏でる音楽の技法のことなのですが、ジャンゴが教会でパイプオルガンの演奏を聞くシーンがとても印象的でした。
音楽の専門知識がなくても大丈夫。
読んでいるうちに、私も主人公と一緒に「対位法」を理解していく感覚を味わえました。
複数の旋律が重なり合って美しいハーモニーを奏でるように、人生もいろんな出来事が重なり合って意味を持つんだなと、なんだか哲学的な気持ちになりました。
また、物語を通してジャンゴの価値観が変化していく様子を自然に描いているのも魅力的です。
特に、友人のゾエとの対話を重ねることで、歴史や記憶について深く考えるようになる場面では、読んでいる私自身も一緒に考えさせられました。

現地の人の暮らしが見えてくる面白さ
記者として働くジャンゴの日常を通して、フランスの人たちがどんな食事をして、どんな乗り物に乗って、どんな風に進路を選んでいるのか——そんな「ある人の日常」がイメージできたのが、私にはとても新鮮でした。
旅行で訪れるだけでは分からない、現地の人の考え方や価値観に触れられるって、読書ならではの醍醐味ですよね。
読み終わる頃には、リモージュだけでなく、フランスの他の地域にも興味が湧いてくるはず。

どんな人におすすめ?
・フランス文化や音楽、世界史に興味がある方
・『永遠の0』のような、過去を辿る物語が好きな方
・ヨーロッパ旅行を計画中で、現地の文化的背景を知りたい方
・読書を通して新しい世界に触れたい方
音楽に詳しくなくても、作品を通して新たな芸術の世界を知ることができます。
専門用語もたくさん出てきますが、まずは物語の流れを楽しんで、気になったことは後から調べても十分楽しめますよ。
読む時のちょっとしたコツ
「ミステリー」という言葉を期待して読み始めると、少しギャップを感じるかもしれません。
謎解きや驚きの真相が明かされるタイプの作品ではなく、むしろ美しい言葉や豊かな表現に出会いながら、異文化への理解を深める作品として読むのがおすすめです。

まとめ:文化を深く味わえる大人の読書
『記憶の対位法』は、知的で文化的な楽しみをたっぷり味わえる一冊でした。
フランスという国の多面的な魅力を知ることができて、同時に歴史や音楽についても考えさせられます。
音楽の「対位法」のように、様々な要素が重なり合って作り上げられたこの作品は、忙しい日常から少し離れて、ゆっくりと文化に浸れる贅沢な時間を与えてくれるでしょう。
大人に読んでほしい、知的好奇心を刺激してくれる素敵な小説です。